豆知識

漢方の目で見る
子どもの体と健康

虚弱児

虚弱児体質は、西洋医学的には病気ではありません。 基盤にあるのが体質的な問題であるため、西洋医学的でははっきりした原因がつかめず、根本的な診療方針をたてるのが難しいのです。 こうした体質の改善は、漢方治療の効果が期待できる分野です。

症状

食が細い、熱が出やすい、風邪をすぐにひく、日頃から元気がない、体重が増えない、下痢や便秘を繰り返す、といった症状のほかに、アトピー性皮膚炎や喘息のようなアレルギー体質も虚弱体質と関係していることが多いことがわかってきています。 そのため、アレルギー体質の改善のためにも、虚弱体質の改善が大切になります。 線が細く、病気がちな子どもであるために、周囲が本人に気を配り、大切に育ててよりいっそう神経質になってしまうという悪循環も生まれます。 これでは、成長の過程で子どもが精神的な逞しさを形成する機会をもてないことになってしまいます。

子どもらしい、明るく元気な生活を送ることは、からだばかりではなくこころの成長にも大切なのです。 西洋医学、漢方療法などの医学的な治療だけではなく、規則正しい生活で生活リズムを整え、無理のない範囲で体を動かすことを習慣にするなど、生活面からも基礎体力の向上をはかることが大切です。

治療の視点

▼西洋医学の視点
虚弱体質という病名はないため、それに対する治療法は確立されていません。 アレルギーや発熱、おう吐など、はっきりした症状が出たときは、それぞれの症状に対する治療を行います。ただし、基本的な体質は改善していないので、症状が治まっても又すぐに同じ症状が繰り返されます。

▼漢方治療の視点
虚弱体質には、アレルギー疾患を発症しやすいタイプ、発熱や風邪など感染症にかかりやすいタイプ、腹痛や下痢、便秘を繰り返す胃腸の弱いタイプ、精神的な要素の強いタイプなどがあります。 それぞれのタイプに合わせて治療法を選択し、いくつかのタイプが混在している場合は、各傾向に有効な漢方薬を二剤合わせて使うことも考えます。 服用後2~3週間で効果が現れない場合は他の処方に切り替えることも考えます。 また、感染症やアレルギー疾患の急性期には、西洋薬を優先して症状を改善するようにします。 主な漢方薬とその基本的な考え方は、次のようになります。

よく使われる漢方処方

小建中湯:みるからに虚弱で、胃腸が弱く、風邪をひきやすく寝汗をかきやすい傾向がある子どもに。まつ毛が長く、眼にくまどりがある子どもに使うことが多い。

黄耆建中湯:小建中湯のタイプで、アトピー性皮膚炎などの皮膚症状がある場合に。

柴胡桂枝湯:風邪を引き易いなどの感染傾向はあるが、日常は比較的元気で、緊張からくる頭痛や腹痛など、精神的な緊張が強い場合に。

小柴胡湯:日頃は元気で胃腸は比較的問題がない。扁桃炎や中耳炎をくりかえすといった、耳鼻咽喉科領域で炎症を繰り返すタイプの子に。

柴胡清肝湯:小柴胡湯と同様の使い方をする。また、アトピー性皮膚炎など皮膚症状がある場合にも使う。

抑肝散:食が細く、夜鳴き、憤怒けいれん、チックなど、神経の傾向が強いタイプに。

小青竜湯:鼻水がでやすく、風邪を引いただけでもゼイゼイと喘息がでるような子どもに。

補中益気湯:疲れやすく、みるからに元気がない虚弱なタイプに。

六味丸:先天的な発達障害の見られる虚弱体質のある子どもに。

虚弱児に対する漢方治療の考え方

発熱、リンパの腫れ、アレルギー体質 体力が比較的ある 柴胡桂枝湯
虚弱 黄耆建中湯、小建中湯
発熱、風邪をひきやすい 体力が比較的ある 小柴胡湯、小青竜湯
虚弱 補中益気湯、小建中湯
胃腸が弱い、食欲不振 虚弱 小建中湯、黄耆建中湯
補中益気湯、六君子湯
心因的な要素が強い 桂枝加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝湯、抑肝散