
「人々が相集まって歌うのは、すばらしいことだと思う。性差や年齢の違いを越えて、共に歌うのは、すばらしいことだと思う。人間の生き方は、人によって、それぞれ、さまざま。
だが、合唱(コーラス)の美しい響きをつくりだすには、他人(ひと)のうたを聴かなければならない。
そして、他人(ひと)はまた自分の声に耳を傾けているのだということを知らなければならない。うまく歌うのもだいじだけれど、合唱(コーラス)で何よりもだいじなのは、互いを信頼し、敬うこと。他人(ひと)の声を好きになること。
そして、人間(ひと)はそれぞれの顔かたちと同じように、めいめい違った声を持っている のだということに、驚きと歓びが感じられたら、あなたの合唱(コーラス)は、きっとこれまでより多くのひとの心をうつだろう」(武満徹著『時間(とき)の園丁』より 新潮社刊)
武満さんは、今世紀最大といっても大げさではない日本の誇る作曲家でしたが、数年前に亡くなられました。その音楽は、ほとんどが一回聴いただけではなかなか取っつきにくい現代音楽なのですが、わかりやすい映画音楽も多数書いておられます。
アレルギーの治療をするに当たって、患者も医者も互いを信頼し、互いの話をよく聞くことが大切です。「歌うこころ」は、私たちの社会生活にも通じる「こころ」だと思います。こうした「こころ」を日常生活のなかでも生かせたら、エゴと対立の渦巻く世の中がずいぶん良くなると思います。